サブタイトルが「高コスト体質の是正と雇用の維持・創出」となっているこのメーンならびにサブの両タイトルが、「報告」のねらい。
性格を端的に示している。
メーンタイトルでいう「危機」とは、一言でいえば「国際競争力の低下。
弱さ」をさす。
その「危サブタイトルの後半部分「雇用の維持・創出」を2つに分けて日経連は説明している。
「雇用の維持」と「雇用の創出」という具合に、である。
そのうえで、前者の「雇用の維持」は「緊急避難措置としてのワークシェアリング」で追求する、という。
この「ワークシェアリング」なるものは、不況下の「過剰一雇用」(「余剰人員」)を背景に、「企業都合の時短」をおこない、これをテコに賃金(賃率)を下げ、これで「一雇用を維持する」という内容である。
要するに、賃金を下げることで解雇を回避しよう、という論理である。
O日経連会長も、「人員が過剰な分だけ労働時間を短縮し、それに相当する賃金を減額することで、雇用を維持しながら総額人件費を抑制する」と述べている(「N」02年1月17日付)。
機」を「構造改革」によって打開する、という論旨だ。
そして「構造改革」の主要ターゲットが、ずばり「高コスト体質の是正」である。
よくみてほしい。
サブタイトルの前半部分「高コスト体質の是正」と後半部分「雇用の維持・創出」は、本来両立できない命題である。
本来両立できない2つを強引に「両立」させようというところに、「報告」最大の仕掛け・トリックがある。
では、「両立」させるための《秘密兵器》はなにか。
日経連流の「ワークシェアリング」論なのだ。
「報告」で「ワークシェアリング」がクローズアップされた理由は、ここにある。
いったい、どういうことか。
注意すべきは、この「緊急避難措置」の中身である。
強調したいことがある。
「緊急避難措置」で、時短とともに賃金が下がる。
問題は、企業が「危機」を脱したあと(つまり「近い将来に」)、賃金が元に戻るか、である。
戻らないこれが筆者の答えだ。
なぜか。
いくつもの理由がある。
第一に、企業が「危機を脱した」という事態など、少なくとも5年先、10年先といった近い将来には到来しないし、仮に「危機を脱した」としても、そのことを企業は決して認めない。
どうして認めないか。
彼らのいう「危機」の中身が「国際競争力の弱さ」であり、「国際競争力の強化」の追求はエンドレスだからである。
それは企業が唱え続ける「呪文」のようなものだ。
そうである以上、「国際競争力が強くなりました。
危機を脱しましたよ。
さあ、下げた賃金を元に戻しましょう。
お待たせしました」などと経営者がいうわけがないこれが第一の理由だ。
元に一戻れない第2の理由はなにか。
それは「雇用の維持」という言葉の理解にかかわる。
労働者と経営者(企業)とでは、「一雇用の維持」についての理解が大きく異なる。
労働者は「一雇用の維持」とは「これまでの企業・職場で、これまで同様の諸条件で仕事ができること」だと理解している。
経営者の理解はそうではない。
労働者をグループ内企業の間で「たらい回し」しても、あるいは関連企業へ出向・転籍させても、「一雇用は維持されている」という理解である。
そのような場合ほとんど元の職場に戻れず、したがって賃金が元に一戻る保証などありえない。
あと一つだけ、一戻れない第3の理由を示そう。
「緊急避難措置」には雇用形態の多様化・転換も含み、正規雇用から非正規一雇用へというケースも十分ありうる、ということだ。
この場合、「危機を脱しましたから、さあどうぞ正規雇用へお一戻りください」ということにはならない。
この点は、「報告」を特に注意して読まないと見逃す。
いや、誤読する。
どう誤読しやすいかといえば、雇用形態の多様化・転換は後述の「中長期の観点からのワークシェアリング」のターゲットであって、「緊急避難措置としてのワークシェアリング」にはそれを含んでいないこういう誤読である。
マスコミの解説の多くも誤読にもとづいている(もっともO会長が「報告」の序文で誤解と同一内容のことを述べている。
彼も誤解している。
まあ、日経連の考えには幅がある、とも解釈できる。
だが、「報告」の正式見解は会長挨拶風の「序文」ではなく、第一章から第5章にいたる「本文」に示されていると解釈するほかない。
だから本書では、「本文」の記述を「報告」の正式見解とみなしてコメントする)。
「報告」の「本文」中の、次のくだりを予断なしで(前述の会長挨拶などにまどわされずに)すなおに読めば、「雇用形態の多様化・転換」が第一、第2の双方に含まれていることが明々白々である。
「ワークシェアリングはいろいろな捉え方が可能であるが、われわれはこれを雇用形態多様化の一環として位置づけ、第一に緊急避難措置としての活用を考えると同時に、第2に中長期的な観点からの導入も検討すべきと考える」。
みられるとおり、日経連流のワークシェアリング論は、まず大前提として、「雇用形態多様化の一環として」位置づけられている。
そのうえで、第一の「緊急避難措置」のもの、第2の「中長期的な観点から」のもの、この2つがあるこう「報告」は述べている。
つまり、雇用形態の多様化差別化)、すなわち不安定雇用を拡大させるために「ワークシェアリング」を導入するのだぞ。
こう「報告」は明言したうえで、その「ワークシェアリング」には2種類があって、一つは「緊急避難」型で、いま一つが「中長期」型だよ。
こう説明している。
確認するが、雇用形態の多様化・転換、つまり「一雇用形態いじり」は、2種類の「日経連流のワークシェアリング」に共通して含まれている、こそ「労働時間を短縮し、それに応じて賃金を縮減することによって、雇用の維持ないし新たな一雇用機会の創出が期待できよう」ということもいえるのである。
ここでは「一雇用の維持」だけでなく「雇用機会の創出」がいわれているが、「創出」には正規労働の非正規化など雇用形態の多様化ぬきには困難である。
すでに99年版「報告」で日経連が示した「一人の賃金を2人の一雇用者で分け合う発想」という、きわめて乱暴な「賃金分割をともなうワークシェアリング」は、正規労働のまま(雇用形態の転換ぬきでは無理である。
たとえば再一雇用という仕掛けにより、正規一雇用を非正規雇用に切り替えることで、賃金半減による「不安定雇用の創出」という企業の野望は達成可能である。
正規一雇用のまま、いきなり賃金を半分に下げたら熟睡している労働組合も目をさます。
経営者はそんなドジはふまない。
このように格段の賃下げには非正規への「一雇用形態の転換」が必要なのだ。
以上、「報告」のいう「緊急避難措置としてのワークシェアリング」をみてきた。
「緊急避難措置」という表現から受ける印象として、一時的な措置であって、いずれ元に戻れる、雨宿りも仕方ない、という気分に労働者をさせるかもしれないが、そんなにあまくはない。
要するに、「緊急避難措置」に名をかりて、どさくさにまぎれて「なんでもやろう」というのが日経連・企業の本音だと、筆者はみる。
結局、賃下げ、雇用破壊が必至ということだ。
次に、日経連流「ワークシェアリング」の第2形態である「中長期的観点からのワークシェアリング」をみよう。
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